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精神分析学、夢判断などで知られる心理学者、ジークムント・フロイトの代表的な学説について紹介します。
フロイトは、人間のすべての行動の背後には、必ず心理的な裏付けがあると考えました。そして、その心理的な裏付けのほとんどが、「無意識」であると唱えたのです。
私たちの動作や発言といった行動は、たとえ意識的に行われているものであったとしても、実はそのほとんどが「無意識」という海のように広大な領域の影響を受けている、とフロイトは主張しています。
主著である『夢判断』や『精神分析入門』などに登場するフロイトの興味深い考え方を、以下に分かりやすく紹介します。
興味を持った方は、ぜひこれらの著書を読んでみてください。
普段私たちが考えたり発言したりする行動のほとんどは、自分で意識的に行っているもの、と思いがちです。しかしフロイトは、意識による行動を肯定しながらも、それはほんの氷山の一角に過ぎないと考えました。
人間の考え、心、行動は、意識をはるかにしのぐ、巨大な「無意識」という領域に支配されており、意識的にとったつもりの行動さえ、この無意識の影響を受けている、と主張しています。
私たちは、日常的に言い間違いや行動の間違い、物忘れなど、ミス(錯誤行為)をたくさん犯してしまいます。一般的に、疲れていたり、興奮していたり、他のことに注意を奪われたりといった原因が考えられますが、中にはこれに当てはまらない場合もあります。
絶対に言い間違えてはいけないと細心の注意を払っていたにもかかわらず、言い間違いをしてしまう、または、言おうとしたことと反対のことを言ってしまう、などという経験がある人もいるでしょう。
フロイトは、こうした錯誤行為は無意識の願望の表れであると考えました。「妨害される意向」と「妨害する意向」という、二つの相容れない意図が葛藤した結果、このような錯誤が生じるのです。
私たちの行動や心は、すべて線でつないで説明できるものでしょうか? Aという原因があれば、かならずBという結果になる。そんな単純ことが言えるでしょうか?
人の行動や心が、すべて線で説明できるとするならば、その線を研究すれば人間の行動パターンもすべて分かります。人間の行動パターンが分かれば、政治は必要なく、戦争も起こりません。
しかし、意識だけをいくら研究しても、人間の心はたくさんの矛盾や不可解をはらんでおり、すべてを線でつなぐことは不可能です。フロイトは、意識だけでなく無意識についても合わせて研究することで、多くの人間の心、行動が線として説明できる、と主張しました。
フロイトは、人間の精神のもっとも奥深いところに、エスと呼ばれる無意識の層があると考えました。
エスとは、簡単に言えば、欲望のこと。心地いいことだけを求めて、嫌なことを避けたいという、すべての人間に原始的に備わった性質です。何が良いか、何が悪いかなど一切考えずに、ただひたすら自分の快楽と解放だけに向けた力を、エスと言います。
赤ちゃんは、エスだけに突き動かされて生きている、と言われています。
やがて人は、家族や学校、社会など、外側に触れる機会が増えるにしたがって、エスだけではうまくいかないことを学びます。外側からの圧力とエスとをうまく調節したほうが得をする、ということを学習します。このエスと戦う現実的な心理構造を、自我と言います。
ちなみに、自我はエスを抑え込むだけではなく、現実に合わせてエスを変形させたり、エスに別の道を与えたりします。
絵画や音楽、舞踏などの芸術は、ある意味、エスを自我の力で変形させた姿、あるいは、別の道を与えられた姿、とも考えることができます。
また、エスや自我とはまったく違う次元で、超自我というものがあるとフロイトは言います。
超自我とは、親や先生、上司などによる教育やしつけを通じて、いつの間にか自分の中に形成された、いわば良心のこと。自我がエスを変形させるときに、周囲や世の中に迷惑をかけないような変形のさせ方を指示するのが、超自我です。
ちなみに、エスはすべての人に同じように備わっている力ですが、自我や超自我は、人によってレベルやタイプが違います。その違いによっては、他人に対する攻撃行動の原因になったり、反社会的な行動の原動力となったり、あるいは精神病の原因となったりすることもあるのです。
フロイトの職業は、心理学者ではなく開業医です。現代で言うと、心療内科クリニックを経営していたお医者さんです。自身のクリニックで、目の前の患者さんの心の病の治療するために、人の心の構造を精神分析学という形で研究していました。その重要な研究成果のひとつに「夢」があります。
寝ている時に見る夢は、一見なんの整合性もない、支離滅裂なものです。皆さんも、朝目覚めてみて、おかしな夢を見たなあと思うことはよくあるでしょう。しかし、その支離滅裂な夢こそが、自身の無意識が選んだ大切なものであるとフロイトは主張します。
人の行動や心のほとんどは、無意識に支配されています。しかし、無意識を自ら自覚することはできません。なぜならそれは無意識だから……。
この無意識を知るための唯一の手段としては、夢を分析するしかない。そう考えたフロイトは、自身の医院を訪れる患者の治療のために、夢の研究を始めました。そして、「こんな夢を見た人にはこんな無意識が隠れている」という夢分析の手法を考えたのです。
その手法は、著作『夢判断』の中に詳しく書かれています。
フロイトの学説は、統計やデータに基づいた科学的な学説ではなく、単にフロイト自身の考え方・思想である、と批判する人もいます。
しかし、フロイトは本来、学者というよりは町医者です。目の前の患者の治療のために、多くの患者から得られた経験をもとに、自らの考えをまとめています。
姿勢としては、思想家ではなく、立派な科学者。精神分析学者です。
今でこそ心理学者として名高いフロイトですが、当時の時代背景や社会システムの影響を受けて、現代では現実的ではない学説も多く唱えていたことは事実です。
しかし、フロイトが唱えた多くの学説が、統計的根拠をともなった上で、現代の心理カウンセリングの基礎に置かれているということを忘れてはなりません。
『精神分析入門』は、1915年から1917年までウィーン大学で一般向けに行われた講義の記録です。対話的手法で書かれているので大変読みやすくなっていて、フロイトの精神分析の世界を理解するための助けとなるものです。
文章量は多いですが、翻訳本でありながら口語形式なので頭に入りやすく、基本的なフロイトに関する知識があれば理解しやすいでしょう。
フロイトの『精神分析入門』『夢判断』の2作をわかりやすく漫画化した本です。
登場人物はフロイト自身や妻、娘、さらにフロイトと関連性の深い精神科医ユングなどであり、フロイトの半生やフロイトの診察風景などを垣間見ることができ、興味深く読み進められます。カウンセラーを目指す人だけではなく、カウンセリングを受けてみたい人にも好評で、実践的なカウンセリングにも活かせる情報が詰まっています。
これまで歴史学者や歴史家によって存在だけがほのめかされていた、『フロイト最後の日記』が翻訳された貴重な資料です。
フロイトの死の間際までの思考を読み取ることができ、ほかの入門書などとは格の違いを感じさせてくれます。
大型本で価格も高いですが、フロイトの深層部に触れたい人におすすめです。
「意識」と「無意識」、「理性」と「リビドー」、「自我」と「超自我」の概念などをわかりやすい日本語で翻訳した本です。
「欲動とその運命」「抑圧」「子供が叩かれる」「快感原則の彼岸」「自我とエス」「マゾヒズムの経済論的問題」「否定」「マジック・メモについてのノート」編があり、硬い翻訳文が苦手な人でも読みやすくなっているので、初めてフロイトの本を読む人にもおすすめです。
1932年に国際連盟がアインシュタインに行った、「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄について、いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてください。」という依頼に答えて、フロイト相手に「戦争」というテーマで語り合った内容です。
書簡なので読みやすい文体でサクサク読めて、養老孟司氏と斎藤環氏による書きおろし解説も収録されているので、「人間とは何か」という命題についてわかりやすく理解を深めることができます。